相続の準備というと、つい「財産はいくらあるの?」と聞く場面を想像します。でも、残された家族が最初に困るのは金額ではありません。
何を持っているのか。手がかりはどこにあるのか。困ったら誰へ連絡すればよいのか。この3つが分からないことです。
銀行名が分からなければ預金を探すところから始まり、保険証券が見つからなければ請求に気づけません。借入や保証債務が後から判明することもあります。そこで、親が元気なうちに「財産目録を完成させて」と頼むのではなく、まずは家族のための案内図を書いてもらいましょう。
①重要書類をしまっている場所
②利用している銀行・証券会社・保険会社の名前
③税理士や保険担当者など、困ったときの連絡先
親に書いておいてほしい相続チェックリスト
下の一覧は、そのまま印刷したり、メモアプリへコピーしたりして使えます。全部を一度に埋める必要はありません。「該当する・しない」だけでも分かれば、大きな手がかりになります。
1.本人と家族の基本情報
- □ 戸籍上の氏名・生年月日
- □ 本籍地
- □ 配偶者、子、きょうだいなど家族の氏名と連絡先
- □ 親族以外で、万一の際に知らせたい人
- □ マイナンバーカード、年金関係書類、印鑑登録証の保管場所
2.遺言書と重要書類
- □ 遺言書の有無
- □ 公正証書遺言/法務局保管の自筆証書遺言/自宅などで保管、のどれか
- □ 遺言書の保管場所や照会に必要な手がかり
- □ 不動産の権利証・登記識別情報、固定資産税通知書の保管場所
- □ 実印、銀行印、印鑑登録証の保管場所
自筆証書遺言には形式上の要件があります。法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用すると、紛失や発見されないリスクを減らせます。財産の分け方まで決めたい場合は、自己流にせず専門家へ確認するのが安心です。
3.預貯金と現金
- □ 利用している銀行・信用金庫・ゆうちょ銀行
- □ 支店名、口座の種類、名義
- □ 通帳・キャッシュカードの保管場所
- □ インターネット専業銀行の有無
- □ 自宅で保管している現金の有無と場所
4.株式・投資・その他の金融資産
- □ 証券会社名
- □ 株式、投資信託、債券、NISAなどの有無
- □ iDeCo、個人年金などの有無
- □ 金・暗号資産などの有無
- □ 取引報告書や契約書類の保管場所
5.不動産
- □ 自宅、土地、別荘、賃貸物件などの所在地
- □ 共有名義かどうか
- □ 住宅ローンや担保の有無
- □ 人に貸している、または人から借りている不動産
- □ 管理会社や不動産会社の連絡先
6.生命保険・共済・年金
- □ 生命保険会社、共済の名称
- □ 証券番号が分かる書類の場所
- □ 死亡保険金の受取人
- □ 個人年金、企業年金の有無
- □ 年金番号が分かる書類の場所
- □ 保険代理店・担当者の連絡先
7.借金・保証・未払い
- □ 住宅、自動車、カード、事業などのローン
- □ クレジットカードの分割・リボ払い
- □ 他人や会社の連帯保証人になっていないか
- □ 未払いの税金、家賃、医療費、管理費
- □ 毎月引き落とされる契約と支払口座
8.仕事・事業に関するもの
- □ 会社の株式、出資持分
- □ 個人事業の設備、在庫、売掛金、借入
- □ 取引先や共同経営者の連絡先
- □ 顧問税理士、弁護士、司法書士の連絡先
9.デジタル資産と契約
- □ スマートフォン、パソコンの保管場所
- □ 主に使うメール、Apple/Googleアカウント
- □ ネット銀行、ネット証券、暗号資産
- □ 有料動画、通販、クラウドなどの定期契約
- □ SNS、ブログ、ドメインなどの扱いの希望
- □ アカウント復旧方法やパスワード保管場所
一覧にはサービス名と「安全に保管した情報へたどり着く方法」だけを書き、認証情報はパスワード管理アプリや別の安全な場所で管理します。クレジットカードのセキュリティコードも書きません。
10.車・貴金属・思い入れのある品
- □ 自動車、バイク、船など
- □ 貴金属、骨董品、美術品、コレクション
- □ 貸金庫、トランクルーム
- □ 家族へ渡したい品と、その理由
11.相続そのものではないが、家族が助かる情報
- □ 葬儀やお墓についての希望
- □ 菩提寺、葬儀社、墓地の連絡先
- □ ペットの引き取り先や世話の方法
- □ 入院・介護時に連絡してほしい人
- □ 郵便、新聞、配食など停止が必要な契約
12.最後に記入すること
- □ この一覧を最後に更新した日
- □ 一覧の原本を置く場所
- □ 原本の場所を知っている家族を1人以上決める
- □ 年に一度、内容を見直す日
「財産を教えて」ではなく「場所だけ教えて」から始める
相続の話が進まない最大の理由は、親にとって「死後の話」や「財産を探られている話」に聞こえやすいことです。最初から金額や分け方へ踏み込む必要はありません。
たとえば、こんな言い方なら始めやすくなります。
入院したときや、スマホをなくしたときにも困るから、重要書類の場所と、使っている銀行や保険会社の名前だけ教えて。金額や暗証番号は書かなくて大丈夫だよ。
30分だけ一緒に座り、まず「ある・ない・分からない」に印をつけます。空欄があっても構いません。誕生日、お正月、お盆など、毎年思い出せる日に少しずつ更新すると続きます。
チェックリストと遺言書は別物
このチェックリストは、家族が財産や契約を探すための案内図です。原則として、誰に何を相続させるかを法的に決める遺言書の代わりにはなりません。
不動産が複数ある、家族関係が複雑、事業をしている、特定の人へ財産を残したいといった場合は、弁護士、司法書士、公証人、税理士など、内容に合う専門家へ早めに相談してください。
期限があるから、手がかりだけでも価値がある
家庭裁判所による相続放棄は、原則として「相続の開始があったこと」と「自分が法律上の相続人となったこと」を知った時から3か月以内に行う必要があります。また、相続税の申告が必要な場合の申告・納税期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
すべてを完璧にまとめることより、借金を含めて調べる入口が残っていることが大切です。親が元気な今なら、「あの書類はどこ?」と本人へ聞けます。それ自体が、後からは取り戻せない相続対策です。
まとめ:残してほしいのは、財産額より家族が迷わない地図
銀行残高や資産評価額は変わります。毎回正確な金額へ更新しようとすると、準備は重荷になります。
まず残してほしいのは、何があるか、情報はどこか、誰に連絡するか。そして、借金や保証の有無。これだけでも、残された家族の手間と不安は大きく減らせます。
一覧を完成させることを目標にせず、今日は重要書類の場所だけ。次は銀行名だけ。そんな小さな一歩から始めてみてください。
本記事は一般的な情報を整理したもので、個別の法律・税務判断を行うものではありません。家族構成や財産の状況に応じて、専門家へご相談ください。制度情報は2026年8月時点で確認しています。


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